チャーン島逃避行
8月上旬のこと。
シラチャー逃避行から帰ると、僕のオフィスは特に普段と変わらない様子だった。
しかし、気違いが出国するまでは安心することは出来ない。とにかく、もうしばらくはここに居ないほうがいい。
できれば静かで何もせずに過ごしたいと思った僕は、モンが勧めるチャーン島の安宿を2泊予約した。天気はどうかわからないが、ビーチでぼんやり過ごせれば心も休まるだろうと思った。
しかし、この歳になって一人旅はもう嫌だ。誰でもいいのでタイ女を連れて行って世話してもらうのが良い。
ということで、午後からチャットを始めて、釣れて来た女に問いてみた。
その女は24歳で名前はアップン。僕のオフィスから5kmほどのところに住んでいる。
「今夜ここに泊まって、明日の朝早くチャーン島に行って2泊する。旅費は僕が全部出すから、君は部屋の掃除と夜のお供をお願いしたい。今夜はディーナーをご馳走するが、お金はあげない。」
チャットでまだ男と会ったことがないという暗そうな女だったが、意外とあっさりと上の条件を飲んだ。アップンは仕事を辞めて2週間になり、その日のご飯代もなくなっていた。どうせ何もすることがなかったのと、ほとんど行ったことがないビーチ・リゾートにタダで行けるというメリットもあってOKしたのだった。
その日の夕方、彼女は約束通りここに来て、部屋の掃除を始めた。写真も根暗な感じだったが、会ってみると本当に暗い女で、ほとんど笑わないし、話もしない静かな女だった。
1−3階まで、履いてからボップでワックス掛け。それとトイレ掃除。掃除の間は僕のTシャツに着替え、汗びっしょりになって黙々と掃除に専念してくれた。その間僕は、パソコン内のやばそうなファイルを始末していた。
3時間ほどで掃除は終わり、セントラルで夕食を摂って、それからシャワーを浴びてベッドに入った。
その夜のことは、なせが余り覚えていない。二人とも裸で寝たのだが、アップンの方は朝起きると上にTシャツを着ていたことだけ覚えている。
翌朝は早起きして、タクシーでアヌサワリーに行き、そこからロットゥーでチャーン島に向かった。トラート県にあり、その向こうはもうカンボジアだ。5時間半かかって、チャーン島に渡るフェリー乗り場に行く別のロットゥーに乗り換えるための停留所に着いた。
ロットゥーの中で、アップンの携帯に入っている写真を一枚ずつ見ながら話を聞いた。彼女はNong Khaiの出身で、一人っ子。父親は蒸発して、母親は糖尿病で足が腐って歩けないので、彼女の仕送りで生活している。高校しか出てない。英語は高校生の時から独学で勉強して話せるようになった。1日10語ずつ毎日覚えた。根暗で可愛げがないが、質素で正直そうな娘だと思った。
何かの表彰式の写真があったので聞いてみると、歌のコンテストで優勝したことがあるとのこと。自分で録音した歌のビデオが数曲分あったので見せてもらったが、ルークトゥンは確かに上手だった。英語の歌も聞いた。発音はなかなか良いし、声も綺麗だが、無表情で歌うその顔を見続けるのは辛いものがあった。
「あんた、女は笑顔が大事なんだよ。少しくらい笑顔を見せたらどうだ。それじゃ男は出来ないよ。」
「ああ、そうかもね。ごれから気を付けます。」そう言ったが、やっぱり笑顔はなかった。
ここが、ロットゥー乗り継ぎ場。
「桟橋までの車はいつ来るんだ?」と、底抜けに明るい切符売りのおばちゃんに聞くと、
「さあ、分からないけど後20分位じゃない?」ああ、やっぱり分からないんだ。日本人には理解し難い。
20分と言ったが、一時間だった。
フェリーは僕達を待っていたようで、僕達が乗り込むとすぐに出港した。
やっぱり辛そうな顔をしている。
チャーン島の桟橋まであと少し。
空が曇っているので海も暗い色をしている。透明度は3m程度だ。
ここが泊まったホテル。チャーン・クリフ・リゾートの入口。
ここが、フロント。
各部屋は別個のコテッジとなっていて、敷地内に分散している。
一泊朝食付き税・ザービス料込みで1200B。
このホテルは地図ではメインのビーチであるホワイト・サンド・ビーチの南端にあるのだが、実際はホテルは崖の上にあって、崖を降りるとこんな海だった。
ビーチまで海岸を歩こうかと思ったが、この景色を見て断念。
ホテルに頼んで、ホワイト・サンド・ビーチまで送ってもらった。
ここがホワイト・サンド・ビーチ前の様子。
ホワイト・サンド・ビーチは波が高く、あまり海水浴が楽しめる感じではなかった。水も砂が浮いて濁っていた。
根暗女は海に来たのに水着を持っておらず、海にも入らずビーチ・チェアーで寛いでいるだけ。実に退屈な女だ。
僕はひたすらマシュマロちゃんが恋しかった。
部屋に戻り、シャワーを浴びて、着替えて二人で夜の街に出てみた。
こんな遠い島なのに、結構バーがたくさんある。コンビニで日焼け止めを買った。
しかし、何処も客は少ない。
バーのおねいちゃんと思われる女もほとんど見かけない。
ホテルの近くの地元のタイレストランで夕食を摂った。安くて良心的で美味しい料理屋だった。
気に入ったので次の日もそこで食べた。
夜もやっぱりつまらなかった。こんな女とでは少しも楽しくないが、それでも一人よりはマシだ。一通りやることはやってぐっすり寝た。
朝食はまあまあ。
この日は晴天で気持ちがいい朝だった。
崖を降りてみた。
海は濁っていて残念。
僕はモトサイを1日200Bで借りて、島内の別のビーチを探検することにした。
アップンは来ないというので、一人部屋に置いて一人で出かけた。マジうんざりする女だ。
ホワイト・サンド・ビーチの一つ南の Klong Prao Beach。
ここは波も穏やかで綺麗なビーチだった。このビーチの後ろはココナッツビーチ バンガローズ リゾートというモンが以前彼氏と泊まったことがあるホテルで、ビーチもホテルもなかなかいい感じ。もし、もう一度この島に来ることがあったら、このホテルに泊まろうと思った。
朝は潮が退いてビーチが広い。
静かで安らぐビーチだ。
ここでひと泳ぎした。
好きな女じゃなくて、あんな退屈な女と来ているのが情けなかったが、所詮これは逃避行だし、誰でもよくて前日にチャーターした女だから仕方がない。贅沢を言っている場合じゃない。
そう思ったら、ひとりでも結構楽しく過ごせた。
ここはまた別のビーチ。更に遠浅で波がなく綺麗なビーチだった。ここでもひと泳ぎした。
これまた別のビーチ。ファランの少女がゾウにのって浜を散策していた。
ここでは泳がずにモトサイで別のビーチへ。
山を登り降りしていくとビューポイントが。
そこから見る海は格別だった。透明度も高くサンゴの生育もここから見える。
ここは海中公園になっているところだ。
実はこの後道を間違えて、鄙びた村に入ってしまった。
「こっちじゃない、あっちへ行け」みたいに言われ、慌てて細い道をUターンしたら、転倒してしまい、かなりの傷を被ってしまった。この傷が治るのには約1ヶ月を要した。
200Bでモトサイを借りて、安いと喜んでいたら、傷つけたオートバイの修理代で2800Bも取られてしまった。
痛い思い出になった。
ここはまた別のビーチ。チャーン島には沢山のビーチがあって、南に行くほど鄙びている。
鄙びているが、それだけ自然が濃くなる。賑やかなビーチが好きか、自然の静かなビーチが好きか、人により好みは別れるだろうが、僕は後者が好きだ。
川の水も綺麗だった。が、魚はいない。
このあとホテルに戻って傷をアップンに見てもらい、それから彼女を誘い出して、一緒にKlong Prao Beachに行った。
もう夕方で潮も満ちていて、朝の様子と大分違う。しかし、海水浴は早朝か夕方がいい。
この時間ならあまり日焼けすることもなく、また涼しくビーチを楽しめる。
ブランコに乗って記念撮影。
そろそろ帰ろうか。
セクシーなファランの熱々カップルも上がってきた。
僕もこんな身体が欲しいと思ったが、そんな希望も虚しく、僕の人生は終わりに近づいてしまった。
その夜はアップンと楽しもうと頑張ったが、息子が言うことを聞かない。
誰でもいいと思って連れてきた女だが、せめて息子が喜ぶような女だったらよかったのに。
ともかく、こうして僕の一連の逃避行は終わった。
いつか今度は愛する人とここに来たいと思う。
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