レッド・ライス・ワイン爆発事件
マシュマロちゃんの研究室から送られてきた写真には、赤いワインのようなものがあった。
それが何なのか聞いてみたら、
「赤いご飯で作ったライス・ワイン。私、その発酵条件を研究してたの。」と言う。
タイには、アントシアニンが豊富で赤黒いお米がある(日本にも、古代米という名前の黒いお米があるが滅多にない)。これを白米と混ぜて炊くと、ちょど赤飯みたいに赤黒いご飯ができる。白米を混ぜないで炊くと、ほとんど黒いご飯になる。アントシアニン以外にもビタミン類が豊富なお米で、トップス・マーケットにも赤いお米やご飯が売られているが、それで作った赤いお酒は見たことがなかった。マシュマロちゃんの説明によれば、アルコールが出来るとアントシアニンがよく溶けてフルボディーの赤ワインみたいな色のお酒が出来る。
「見た目も綺麗だし、カラダに良いし、良いでしょう? 味は飲んだことがないから分からないけど。」と言う。
これはひょっとすると行けるかもしれない。ありそうでなかったもので、既存技術の改良で製造できる。お米と酵母と条件を教えてあげれば、どこかの酒蔵で作って新商品に出来るかもしれない。もし、美味しければきっと売れるだろう。
ただ、赤い部分は主にお米の表面部分なので、しっかりと精米すると白くなってしまうかもしれない。一方、一般的には、しっかり精米しないと美味しいお酒は出来ない。
「それ、飲んでみたいなあ。美味しければ、売れるかもしれないよ。何しろ、日本にも赤いお酒なんて見たことないから、健康にいいなら売れるかもしれない。美味しいのかなあ。飲んでみたいなあ。」
と言ってみたのがいけなかった。
「うん、分かった。もう一回試してみるね。」
マシュマロちゃんは、大学からスラントで発酵に使う数種の酵母菌を持ってきた。
そして、ペットボトルに赤いお米を入れて発酵させ始めた。
僕も高校時代にやったことがある。ワインを作ろうとしたのだ。
発酵は、大抵は初めちょろちょろ。安心していると急激に発酵してきて炭酸ガスが発生する。それが密閉したボトルを吹き飛ばす。すると発泡酒みたいに、一気に中身が吹き出してしまい、部屋中が汚れまくるのだ。
これをマシュマロちゃんもやってしまった。密閉してはいけなかったのだ。
壁際に置いてあった発酵ボトル。青黒っぽいものが壁に吹きかかっている。
床にも発酵中の赤いお米が散乱。相当な勢いで吹き出したと思われる。
部屋はすぐに綺麗に掃除され、もう汚れていない。
これだけなら、笑い話で済んだ。
しかし、そこは運の悪い彼女のこと。実は、この爆発が深刻な事態を招いた。
その液が、卒論を書くために友人から借りてきたばかりのノートパソコンの上にも降りかかってしまった。
扇風機でパソコンを乾かしているところ。
前に書いたように、彼女はタクシーの中にパソコンを忘れ、卒論を書くことが出来なくなった。気の毒に思ったので、僕は自分のAirMac (special versionで20万くらいした)を貸してあげた。
だから、本来ならば僕のAirMacが被害に合うはずだったのだが、彼女はマックが上手く使えなかった。しかも、理由は不明だが、必要な統計ソフトをダウンロードできなかった。
というわけで、そのソフトがインストールされている大学の同僚のパソコンを借りてきていた。
爆発事故があったのは、その数日後だった。
今日は数件のショップを回り、修理を依頼しているそうだが、修理不能と言われている模様。
「私、弁償しないといけない。お金ないしどうしよう。」と泣くマシュマロちゃん。
そもそも僕に飲ませてあげようと思って家で発酵させたのが間違いだが、僕が事件に絡んでいる。タクシー内で忘れた時も、後から降りた僕が気が付かなかったという落ち度もある。
僕は彼女のパソコンの疫病神なのか?
運の悪い女だ。
そもそも疫病神に恋してしまったところが、最大の不運なのかも。
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