愛しのオリオン
タイに来る前、今頃は夜になると毎日の様に、もう死んでしまった愛犬つばきと一緒に暗い夜道に出て、冬にひときわ明るく目立つオリオン座を見つめたものだ。
この時期は夜空も澄んで、家からはちょうどオリオン座の方角が一番暗いので、誰が見上げてもオリオン座に目が付く。
その左上に赤く輝くベテルギウスと、右下の青いリゲルは、親に買ってもらった百科事典の天文学編を飾る巨星で、少年だった僕の心を強く惹きつけた。
中年になってからは、そのオリオンの中の星を数えるのが好きになり、数えているうちに何故か泣いている自分に気付いたものだ。
今日タイで美味しい夕食を食べて家に戻る時に、そのオリオン座が真正面にあったので気付いたが、科学ニュースで騒がれている通り、ベテルギウスの赤が薄れ、リゲルの青の方が目立った。
ニュースに依ると、ペテルギウスの明るさが、この数カ月という短い間に半分以下に暗くなってしまったらしい。ベテルギウスは、かつては夜空で9番目に明るい超巨星だった。
ベテルギウスのような超巨星の寿命は短くて、大抵超新星爆発という激列な最後を遂げる。爆発と言うより爆縮で、中心に溜まった鉄原子核が核融合すると、逆に大量のエネルギーを吸収するので、多くの原子が急に中心部に引き寄せられて、ぶつかり合って激しく跳ね返る。結果として、元の中心部にはブラックホールか中性子星が残る。百科事典にはピンポン玉位の中性子で地球と同じ質量になるとか書いてあって、少年の僕を眠れなくしてくれた。
ともかく、最近のベテルギウスの急激な変化は、その超新星爆発の前触れではないかと言われている。
超新星爆発がそんなに急に起こるとは思えないが、オリオン星座ファンの僕としては、死ぬまでに是非観てみたいと思う。