ボケ老人に一歩近付く
脳内出血した事故から6週間が経ち、頭はほぼ回復したつもりだったが、どうも未だ血の巡りが良くないみたい。
前にも書いたが、忘れてしまった記憶は何もないと思う。
45年前の初恋の彼女のクリちゃんだって、未だに鮮明に覚えている。
そればかりか、事故直前の記憶が蘇ってきた。
あの朝、カオヤイ農園からワンナムキアオに向う時に、僕はマシュマロいちご園のアルコール類販売ライセンスの書類を持って行くのを忘れた事に気が付いた。
あれがないと罰金物だし、一人で頑張ってくれているワーカーが逮捕されかねない。
「お酒のライセンス忘れたから止まって!」
僕はマシュマロちゃん運転の動き出した車を止めようとした。
「あんなの、また今度で良いわよ。」とマシュマロちゃん。
「駄目だ、絶対! 車は戻らなくていいから、僕が降りて取ってくるから、ちょっと待てて。」
そう言って、僕は30メートル程進んだ車を降りて、カオヤイのお店に向けて歩き出した。妙なところで、律儀な日本人の特性が出たものだ。あんなライセンス、調べられたことは一度もないのに。
僕はお店に近い左側の歩道を歩いていた。お店に向かう曲がり角の3メートル程手前で、道端にあった何かの草を採った。
覚えているのはそこ迄。
僕にぶつかったバイクを運転していた少年は、ぶつかる直前、僕が植物を手に握っていたと言ったらしいが、それと一致する。
ぶつかった時の様子や痛さは何も思えていないけれど、事故直前の記憶は戻った。
だけど、事故から今日までずっと頭の回転が悪い。
ずっと睡眠不足のような感じで、お昼過ぎには居眠りしてしまう。昨日も今日も30分程眠ってしまった。
ややこしいことを考えるのを避けている感じ。表情もちょっと虚ろ。何時もぼっとしてる感じ。
2年前から売り子をやってるベテラン女性は、僕の言うことが子供っぽくなったと言う。
マシュマロちゃんと話していても、彼女がなんの話題について話しているのか分からないことが時々ある。
ちょっとしたことに対して突然僕が怒り出すことが増えたらしい。
まるでボケ老人になったようだ。
「切れた血管が再生されて血が周り出すのに、もうちょっと時間が掛かるのさ。」
と弁解しているが、血の巡りは死ぬ迄良くならないかも知れない。