ブタの生贄 血の宴会
マシュマロちゃんは仏教徒だが、それ以前にモン族古来の精霊信仰がベースにある。彼女の家族も皆同じ。
精霊は至る所に居る。古い大木、神秘的な池、山、川、岩、或いは家の中に住んでいる。
ちょうど少し前の日本と同じだ。
精霊を怒らせてはならない。精霊を敬わないと、災いが起きる。
お酒を飲むときは、最初に少しだけ地面にこぼし、土地の精霊に施してから飲む。
モン族のそれと同じかどうかは知らないが、精霊信仰はタイ全土にある。大きなカジュマルの木に赤や黄色の布切れが掛かっていて、下にお供え物がたくさん置いてある場所を何度も見たことがあるだろう。あれは悲恋の死を遂げた女の精霊が宿っているらしい。
さて、いちご園もシーズンオフとなり、今季の無事に感謝し、来季の繁盛を精霊にお願いしないといけないが、その為には豚をその土地の精霊に生贄として捧げて祈願しないといけない(のだそうだ。)
モン族の家族に言わせれば、これは絶対にさぼってはならない行事で、さぼりでもしたら、精霊の怒りに触れて、繁盛どころか災難に会うだろう(とのこと)。
最初に、彼女の兄の所で生贄は捧げられた。
僕達ももちろん呼ばれたが、少し遅く行ったので、到着した時には、既に生贄の豚は絶命していて、解体されつつあった。
豚は近所の養豚場から直接仕入れた67kgの白豚。約5000バーツ。
ちょうど内臓が全部外されて取り出されたところ。
胸部と頭部を切り離した。彼らが日頃使うナタ包丁は非常に鋭く硬くて骨まで綺麗に切れる。まるで日本刀の様。
見慣れた肉片に近付いてきた。
早速、小腸を洗って茹でて食べた。
バラ肉も細かく刻んで焼肉とムーカタに。
長老の僕は何もせずにビールを飲みながら見ているだけ。
彼らの肉裁きは決して上手くなくて、余っていたナタ包丁で僕も裁きを手伝おうか迷ったが、下手に怪我でもしたら逆に面目潰れるので、長老らしく座ってビールを飲むだけにした。
解体場のテーブルがそのまま食卓に!
なんという無神経!
えげつないことこの上ないが、全然気にしない様子。
まあ気にしなければ気にならない。
超新鮮な焼き立て焼肉は、腰があって美味かった。
これは頚動脈や心臓から取った血液。既に凝固している。
タイ人は豚の血を良く食べる。ナムトックとは滝の意味だが、食材としては鮮血の意味。
血の固まったやつ溶血した血をクイッティオに入れて食べる。全く生臭くない。タイ人に貧血が少ないのは血を食べるせいだろうか?
それでは血を使った料理を紹介。
ラープ·ムーという。
驚くなかれ、生の豚肉を食べる。超新鮮な肉が手に入った時だけ食べられるメニューだ。
バラ肉を包丁で叩いてひき肉にする。そこに凝固した血液を混ぜて更に叩く。
そこに、トウガラシ、ニンニク、パクチー、エシャロット、醤油のようなたれ、
そしてこれが肝心なのだが、サルビアに似たシソ科のハーブ(名前失念)を加えて混ぜる。これだけ。
気持ち悪くて辛そうだったが、食べてみたら超絶品。まるでマグロの叩きの舌触り。
こんなもの食べたら腹を壊すって?
はい、壊しました。でも、不衛生で壊したのじゃなくて、トウガラシにやられただけ。
サンチャンという3層の肉。皮膚と脂身と筋肉の3層。
普段僕はこれが嫌いなのだが、このときは美味かった。どの層も柔らかく、弾力性があって、味が濃かった。
解体しながら調理して食べる。生肉を片付けてから宴会テーブルを用意すればいいのに。ただ、肉はだんだん減ってゆくので、案外合理的かも。
普通の日本人は無理でしょう、この食卓は。
肉の匂いを嗅ぎつけて、凄い量のハエが寄ってきた。初めはバナナの葉っぱで作ったハエよけでハエを追っ払っていたが、ビールが進むにつれ面倒になり、中国製のハエ取り紙使った。
これが驚くべき効果を発揮。ハエがハエ取り紙に止まるともう飛べない。毒があるのか、すぐに死ぬ。
写真はまだ少ないが、一枚につき1000匹ほど捕獲出来て、紙が真っ黒になった。
これがその製品。
日本にも黄色のハエ取り紙があったが、最近は余り見かけない。
タイでもこのタイプのものは初めて見た。三枚で20バーツ。
誘引剤、毒入り。
生贄の儀式は30分で終わったが、宴会は9時間続いた。
これでもう十分だろうと思ったが、カオヤイ農園でも同じことをやらないといけないらしい。
嫌だ、長老は見ているだけにさせてくれ。