一人と二人
もういちごの叩き売りも飽き飽きした。
以前は、お客さんが来ると嬉しくて張り切ったが、今じゃ車からこちらの様子を見て、来ようか止めようか決めかねている勇気のない客なんか、来なくて行ってしまった方がホッとする。
助っ人の住込み夫婦も皆同様飽き飽きして、農園の事など気にもせずに田舎に帰ってしまった。だから、2つの農園に僕とマシュマロちゃんと、今だけ来ているマシュマロちゃんのお母さんの3人だけだ。
土日にはマシュマロいちご園で現地イサーン人を雇っていたが、良く働いてくれるのに、お金を盗んだことが発覚したので、即首にした。
そう言う訳で人手が居ないので、僕が一人でマシュマロいちご園やカオヤイ農園を遣り繰りしないといけなかった。無論、マシュマロちゃんも同様である。
しかし、たった一人というのはとてもやりにくい。
お客さんは滅多に来ないのに、お店は空けられないので、トイレに行くのも簡単じゃない。
飯を買いに行くのはほぼ無理。
いちごの水やりのためにポンプに足を運ぶと、そういう時に限ってお客さんが来る。慌てて走って戻ると、大抵冷やかしだけで何も買わずに帰ってしまう。お店と水やりだけでも両立は無理。
では忙しいのかと言うと、そうではない。ズバリ、お客はたまに来る程度で、超が付くほど暇なのだ。それなのに、他に何にも出来ないのが苛立たしい。
それに、寂しい。
マシュマロいちご園には犬が2匹いて、話し相手になってくれるが、カオヤイには誰もいない。
暑さとセミの声で思考が停止。寂しくて不愉快で口がへの字に曲がっているのが分かる。
たまに売れても余り嬉しくもなく、客との雑談もうんざり。お客さんが帰るとホッとするくらいだ。
だから、タバコに火を付けることしかやることがない。
もういちご園はクローズしてしまいたいと思う。
カオヤイ農園はまだ良い。
ワンナムキアオのマシュマロいちご園は、1日一万円に届かなくなった。
それで、マシュマロちゃんは、お母さんにマシュマロいちご園を任せ、売上は全部お母さんに上げて、カオヤイ農園で僕と二人で過ごすことにした。
マシュマロいちご園と妹さんのいちご園からいちごを、10kg程度採ってきて、それをカオヤイで売るようにした。
そしたらどうだろう。
お客さんが来ても来なくても楽しい🎶
お店の番も水やりも問題なし。
一緒にいちごジュースを飲んだり、一緒にトイレに行ったり、いちごの様子を話したり、何をしても、何もしなくても、気持ちは充実して笑顔が戻って来た。
二人で居ると二人とも気持ちが落ち着いてハッピーだった。
思えば、今年2つのいちご園を始めてから、二人で一つのいちご園に居るのは滅多になかった。二人だけになったのは初めてだった。
二人でこうして居ると、心は平和で充足する。
必死でお金を儲けるのも必要だが、こんなふうに過ごせたら、それで幸せなように思った。