カンチャナブリ紀行:川に浮かぶランプの宿
そこは驚きのホテルだった。
その宿はマシュマロちゃんが見つけて、僕がアゴダで予約した。しかし、アゴダで見た情報と、実際の宿とは全く異なっていた。
どこが凄かったのかといえば、
- ホテルに通じる道がなかった。
- 地図で示された場所は駐車場の場所であって、ホテルはそこから数キロ舟で川を登ったところにあった。
- ホテルは川辺ではなくて川の上に浮かんでいた。
- 電気はなくてランプの宿だった。
- 他にレストランがないので朝食と夕食付きだった。
そのホテル、名前は River Kwai Jungle Rafts Resort という。
Agodaで50%割引、一泊二日朝食、夕食、ボートトリップ付きで、税サービス込 2362タイバーツだった。
一見高そうだが、二人分の夕食も含む価格なので、それを考えるとそれほど高くはないと思った。
基本的に僕はホテルなんかどこでも良いと思っていた。ちゃんとしたベッドと淡水シャワーさえあれば、600バーツのホームステイでも十分だ。
マシュマロちゃんは、川のホテルで泊まりたいと言った。僕としては、そんなところで泊まっても、水の音が煩いか、夜の営みで部屋ごと揺れて恥ずかしいだけに決まっている。
しかし、Agodaのユーザーレビューを見ると、多くの人が最高のホテルだと言っていたし、夕食付きなら出歩く面倒くささもなく良いだろうと思って予約したのだった。
カンチャナブリからサイ・ヨーク国立公園を経て、カオレーム(Khao Laem)国立公園に向けて、クウェー・ノーイ(小クウェー)川が削った渓谷を国道323号線は走る。
ヒンダット温泉を堪能した僕らは、ミャンマー国境付近のサンクラブリーというところにあるモーン・ブリッジに向かった(別記事)。
途中、クウェー・ノーイ(小クウェー)川が国道と接するところがあった。
かなりの急流だが、川底は浅い清流だった。上流のダム湖から流れている。水位は低いが、この渇水期にしてはたっぷりと水が流れていて驚いた。
僕らが泊まる予定のホテルは、この川辺にあるはずだった。
周囲の山は石灰岩。溶けて切り立っている。
山に雨が降れば、水墨画の世界のようだ。
モーンブリッジとダム湖に沈んだ街(別記事)を見て回っていたら、すっかり遅い時間になってしまった。
グーグルマップで予約した宿の場所にたどり着いたのは、夕方7時頃になっていた。
やっとのことで駐車場に着いたと思ったら、そこに宿はなかった。
荷物を持って、川に降りろと言われた。
川には船着き場があって、そこから船でホテルに行くという。
ホテルを予約した際、ボートトリップ付きとあったので、何か楽しいアクティビティでも付いているのかと思ったら、駐車場からホテルまでの移動手段だったらしい。なんだ、がっかり。
夕闇迫る川辺。
このボートでクウェー・ノイ川を遡ったところでチェックインしろとのこと。
「どのくらいボートに乗るんですか?」
「そうだなあ、20分位かな。」
20分だって? ほんのすぐそこと思っていたが、20分といったら何キロも先のことになる。
そのボートの旅の途中、辺りはすっかり暗くなり、両側に押し迫る絶壁が暗い影になって襲いかかってきた。
「とんでもないホテルに来てしまった」と僕たちは思った。
しかし、翌日、明るい日差しの元でこの風景を見たら、文句なしの絶景だった(後述)。
(このボートによる移動は、Agodaで予約した際の料金に含まれているのだが、僕達の場合、遅い時間になり過ぎていて、2人だけの移送になったため、チェックアウトの際に追加の500バーツを取られてしまった。僕だったら絶対に払わないお金だが、彼女は言われるままあっさりと払ってしまった。)
途中、「ああ、やっと着いた」と思ったホテルを幾つか通り越して、ようやく僕達のホテルに辿り着いた。20分以上かかったと思う。
チェックインは名前を言うだけだった。
川に沿って数百の部屋がある長いホテルだった。
驚いたのは、ホテルに電気がなかったことだ。
至る所にランプが置かれている。
ランプはムードを盛り上げるが、そのためにあるのではない。本当に電気が一切ないのだ。
電気がないのは本当に困る。携帯の充電が出来ない。携帯のバッテリーが切れたら、もう即何もできなくなる身体になっていた。カメラの電池の充電だってしたい。そうでないと明日写真が撮れない。重大問題だった。
しかし、ここでは、そういうことから離れることに意義があるというか、皆それを求めて来ているのだということを察知して、考えを変えた。
川の流れの上にホテルがあるのは水の音で分かった。流れは速そうだ。暗くて、ここで川に落ちたら絶対助からないだろうと思った。
もう夕食の時間になっていたので、部屋で荷物を下ろすと、すぐに食堂に向かった。
もちろん食堂にも電気はない。僕の超高感度カメラで写すと明るいが、実際は暗くてよく見えない。
電気はないが、冷えたビールはあった。それだけで嬉しかった。
ビアシンの小瓶が95バーツ。安くはないが、そんなとこだろう。
大瓶はないのかとクレームをつけたら、店員は「二本飲めば大瓶と同じさ」と言って、
「シンガーソング!」と大声を出した。シンハーソング(シンハーを二本)をもじった言い方で気に入った。
180mlの小瓶を2本飲んでも、まだ中瓶にしかならないが、そういう細かいことを気にしていたらタイでは生きていけない。
料金込みの夕食は、自動的に出てくる。もちろん選べない。しかし、結構な量が出てきて、僕達には十分だった。味も外国人向けの辛くないタイフードだった。おかずのおかわりは出来なかったかもしれないが、コーヒー・お茶・ご飯はいくらでもおかわりが出来た。
暗いランプしかないそのホテルは、本当に暗くて、足元の川面も全く見えなかった。
その代わり、夜空は真っ暗で星がたくさん見えた。
多分5等星か6等星まで見えただろう。天の川もくっきり見えた。
ここには煩い中国人はまだ来ないらしくて、おとなしいタイ人の話し声と、時々暗い森から聞こえてくる動物の声と、足元の水の流れる音以外は何もない静寂だった。
いつの間にか、タイ人もこういう自然と静寂にお金を使うようになったんだ。
夜はモーン族の舞踊ショーがあったので、参加してみた。1人180バーツ。
モーン族とは、モーン・ブリッジのモーンであって、マシュマロちゃんのモン族とは発音も文化も民族も全然別。モン族の舞踊は知っていたが、モーン族の文化は全く知らなかったので、それを知るいい機会だった。
電気がないから音楽はどうするのだろうと思ったら、民族楽器の生演奏だった。
リズムもメロディーも聞いたことがないもので、演奏が上手なのか下手なのかも分からなかった。
世界の音楽を多く知っていると自負していた僕だが、全く聞いたことがない音楽だった。
衣装も、舞踊も、モン族とは全く異なっていた。
踊りを見ていると、ワットプラケーオの武者像を連想させた。何処か中国と中央アジアの匂いがしたが、モーン族のことは勉強不足で何も知らない。
この人の踊りは良くて、多分指導者と思った。その他の踊り子は、如何にも素人臭くて美しくもなんともなかった。
翌朝、マシュマロちゃんは早起きした。
僕も夜明け前から山に響く鳥の鳴き声で目覚めてはいたが、そのまま目をつぶって横たわっていた。
朝起き上がって周りを見て、始めて自分たちのホテルの状況が分かった。
各コテッジは浮船になっていて、それぞれ3部屋あった。そんな浮船コテッジが何十も連なっていた。
部屋の前には、川に浮かんだ桟敷があって、ここでくつろいだり、釣りをしたり出来る。
部屋の中の様子はこんな感じ。
ダブルベッド一つとシングルベッドが一つあった。その奥に、シャワールームがある。
部屋の前には、テーブルとハンモック。
まだ眠気眼だが、朝起きの一発。
これから朝食に向かうところ。
岸辺の山はガスがかかっていた。
向こう側の川に突き出した部分がレストラン。
ここで朝食を摂った。昨夜の夕食と同じ場所だ。
自画撮りのために買った如意棒 が気に入って持ち歩く彼女。
まだ若いぞうさんも居た。
この竹の道を上がったところにモーン族の村があるらしい。
川の水はタイの川にしては澄んでいて、魚がたくさん居た。これは赤びれウグイの仲間。チャオプラヤーにもたくさんいる。体長30センチ位。
人間川下り(別記事)を堪能した後、僕たちは船で駐車場に戻った。
自画撮り如意棒でツーショットを楽しむマシュマロちゃん。
これが僕らが泊まったホテルの外観。
明るいところで周りを見れば、昨夜の黒い恐怖にうって変わって、新緑が美しかった。
黒い壁は、この川が削った断崖絶壁だった。鍾乳石も垂れ下がる高い壁。怖かったわけだ。
川の周囲はこんな絶壁なので、ホテルに続く道がない理由が分かる。
このホテルは、僕らが泊まったホテルの手前にある。電気もあって、僕らのホテルよりも高級そうだった。
このホテルの名前は、フロートハウス。
石灰岩と新緑の美しい対比。
写真だとスケール感が出ないが、押し迫ってくる感じで感動した。
地図にもないような峡谷の中の川に浮かんだホテル。
今までタイで泊まったホテルの中で最も印象深いホテルだった。
マシュマロちゃんは、両親を連れて来たいという。新しいもの好きで同じホテルを利用しない習性の僕も、ここにはまた来たいと思った。
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