新いちご園探索その3
3度目の新いちご園探索にカオヤイに行った。
新たな候補地はどこも可能性なく、無駄足を踏んだと思った夕方、1回目の探索で見つけた候補地であるトウモロコシ畑のオーナーとやっと電話が繋がった。
オーナー:「あの場所は貸さないなあ。いちご園をやりたいんだって? 今は何にも使ってないが、俺もイチゴやりたいと思ってるからダメだ。ブドウやメロンもあるし、色々アイデアはある。万一貸したとしても、期間は保証できないな。俺に何かプランが出来れば、即刻立ち退いてもらうことになる。」
オーナー:「何? 1ライ5000バーツだって? 冗談じゃない。1ライ5000バーツとか1万バーツとか、そんな端金じゃ貸せない。あの土地は高かったんだぞ。全部で21ライある。買ってから、まだ何も使ってないが、今じゃ大分土地も高くなった。どう使うか考え中だが、仮に貸すとしたら安くはない。」
オーナー:「モン族の連中が何人も貸してくれと言って来たが、全部断っている。あんな連中に貸したら、見窄らしい事やられて、土地の評判が下がっちゃう。」
さっぱり期待できそうにない返答だった。彼はマシュマロちゃんがモン族であることを知らない。
マシュマロ:「実は今カオヤイまで来ているんです。一度会って話をさせてくれませんか?」
オーナー:「明日の朝なら少し時間がある。俺のホテルに10時に来てくれ。ただし、用事があるから長くは話せない。」
彼は広大な農園の他に、二つのホテルを所有していた。
翌朝、8時半に安レストランで朝食を注文して、料理が運ばれてくるのを待っている間に、再度アポイントの確認電話を入れると、
オーナー:「今、パクチョンの俺の農園に居るから、ここに来てくれ。このあと出かけるから早く来てくれ。」
僕達は出来た料理を一口も食べずにビニール袋に入れてもらって、すぐに農場に向かった。彼の農場の場所は分かりにくいが、前回訪ねて行った際にグーグルマップに印を付けておいたので迷わず行くことが出来た。
農場に着いてみると、中国人らしき団体20名程がぶどう狩りをしているところだった。
電話を掛けてみると、オーナーはその団体の中に混ざっていた。お客さんよりも薄汚い格好だった。団体客がぶどう狩りが終わって帰ってゆくと、
オーナー:「いちご園だったな? 俺もいちごをやってるんだ。」
ぶどう園の周囲はいちごの高設栽培の棚が並んでいて、いちごの苗が未だ枯れずに青々と元気そうだった。小さな花も咲いていて、小さな実も成っていた。この時期に枯れずにいるだけでも驚きだった。葉っぱの裏や実をよく見て、ダニやスリップスを探したが見つからなかった。農薬をたっぷり使っている痕跡があった。しかし実の一部はスリップスにやられて黄ばんでいた。葉が茂りすぎていて、葉がきが足りないようだった。また、木がもう古く、世代交代が必要だと思った。
そんなことを観察していた僕らの様子を見て、
オーナー:「この農園は奥にまだずっと続いている。いちごをもっと増やしたいと思うが、このいちごを見てどう思う? なかなか上手く行かない。」
マシュマロ:「よく手入れしているから、この暑さで枯れずにいるんですね。花も少しだけど咲いている。品種は何ですか?」
オーナー:「まあ、ここで話すのも何だから、近くの喫茶店に行って話をしよう。」
と言って、15分ほど離れた自分が所有するホテルに近接した彼がオーナーの喫茶店に案内された。
改めて挨拶すると、意外に人の良さそうな人だった。畑で採れた新鮮なグレープジュースを出してくれた。
オーナー:「それで、あなた達は最大で幾らまでなら出せるんだ?」
マシュマロちゃんと僕は顔を合わせて、昨夜の打ち合わせ通りの話をした。
マシュマロ:「10万バーツが最大です。ただし、土地の全部は使いません。街道沿いに4-5ライあればいいんです。」
僕はずっと黙っていた。マシュマロちゃんが言うには、僕が外国人だと分かるとお金が取れると思って外国人価格になるから打ち合わせには来ないほうが良いと言っていたが、僕は黙っているという条件で一緒に行くことにしたのだった。
オーナーは僕の方を向いて話をするので、僕が日本人だとバレてしまった。それから、急に態度が変わった。
オーナー:「ほう、君は日本人かあ。中国人と思ったわ。俺の家族はタイに居る元中国人だが、中国人には貸さん。いや、日本は技術力が凄いよ。日本人が作るものは何でも凄い。トヨタやホンダだけじゃない。いちごも凄い。どうしたらあんな風にできるのか不思議だ。暑い時に出来るいちごもあるんだろう。実は俺はあれがやりたいんだ。今、メロンもやっている。日本のメロンはタイのメロンとぜんぜん違う。さっき見た農園の奥には、ドリアンもマヨンチット(琵琶に似たフルーツ)もある。」
そのうちに娘さんと息子さんが来て話に加わった。隣のホテルは息子に任せて、娘には新しい別のリゾートを建設中なのだそうだ。しかし彼自身は農業に興味があるようで、彼の農園を立派な観光農園にしようとしていて、入り口には洒落たカフェを建設中だった。設計図も見せてもらった。何処にそんなお金があるのか不思議だ。しかし、僕らに言わせれば如何にも場所が悪い。放っておいたら誰も来ないような場所にあるのだ。僕らが借りようとしている場所の方が観光農園には遥かに適した場所のように思えた。
娘さんの身なりは小綺麗で少しお高く留まったお嬢様風だった。日本語も少し話せた。顔は日本人に似ていて、そのことを言うと嬉しそうだった。
娘さん:「日本人みたいですか? ありがとうございます。私、日本に3回行きました。私は中国タイ人ですけど日本は好きです。父は、日本のいちごがやりたいんです。大きなチャンスがあると思っています。」
ハムケン:「実は、僕らも昨シーズンに日本のいちご株を持ってきて試してみましたが、なかなかうまく行きませんでした。」
マシュマロ:「日本のいちごは柔らかすぎて扱いにくいです。それにこの辺りではやはり気温が高過ぎるのか、大きくて甘いいちごは出来ません。病気にも弱いです。」
ハムケン:「近年、日本では四季成りという暑い時期でも実がなる品種が沢山創り出されています。でも、流石に30度を超えると花は咲きにくい。温室が必要で、温室内を冷やす装置も必要かもしれません。」
オーナー:「おう、それだそれだ。その四季成りというのをやりたい。クーラー付きの温室も作る予定にしているが、どうやって栽培すれば良いのか分からんで困っている。どうだ、あの土地でいちごを作るんじゃなくて、俺の農園で俺のプロジェクトに加わって一緒にやらないか?」
話が意外な展開を呈して来た。オーナーは少し興奮気味で、時折娘さんが抑えるようにサインしていた。英語が堪能な息子さんも乗る気満々のようだった。
息子さん:「そうだよ。一緒にプロジェクトをやることを考えてくれないか? あの土地を借りて新しくいちご園を作る必要なんかない。もう土地も農園もあるんだ。水の心配もない。もしプロジェクトに参加してくれたら、住む部屋も無償で提供するよ。僕らにはお金はあるけど技術がないんだ。協力者が必要なんだ。ぜひ協力して欲しい。」
娘さん:「あの土地はせいぜい標高350mかそこらでしょう? でも、私達の農園は500mあるから、もっと作りやすいんじゃない? それにクーラー付きの温室も、もうすぐ建設する予定だし。絶対そこで一緒にやったほうが良いと思うわ。父は10万バーツの賃料なんて興味ないの。」
四季成りの日本いちご栽培をタイで開拓するなら、こういうお金持ちと組まない限り難しいかもしれない。ワンナムキアオで日本いちごの栽培をしている友人も、大金持ちのタイ人に億単位の立派な全自動温室を作ってもらい、日本品種の栽培に挑戦している。
その意味では、この話はチャンスかもしれない。しかし、僕らは四季成りいちごの栽培法を知っているわけではない。ましてや、タイの気候に適した栽培法などまだ丸で知らない。しかも、プロジェクトに加わるということは、彼らの従業員に成るようなもので、安月給で成果はオーナーが全部持って行ってしまうのは目に見えていた。それ以前に、ワンナムキアオのいちご園と新いちご園の二つをやったら、彼らのために働く時間なんて無い。
僕らが難しい顔をしていると、オーナーは言った。
オーナー:「プロジェクトに参加するのもしないのも、あなた達の自由だ。仮に参加しないとしても、あの土地は貸してやることにするよ。賃料の10万バーツを使って、道路に面したところ(国の土地)も綺麗に整備して駐車場にしてやる。ものを売るなら綺麗にしなきゃだめだろう。君たちも見窄らしいことをして、俺の土地の価値を下げないようにしてくれ。水のことはそちらで解決してもらわないといけないが、水道ならすぐに引ける。」
僕は驚いた。賃料で駐車場の整備するということは、10万バーツの端金が欲しい訳ではないのがよく分かった。
マシュマロ:「そこに大きな看板がありましたけど、あれはどうなりますか?」
オーナー:「あれは俺が作ったやつだから、あれも俺が撤去してやる。」
プロジェクト参加という大きな宿題が付いたが、土地は貸してくれそうだし、駐車場も整備してくれるというのだから、いい方向の話だろうと思った。ただし、プロジェクト参加を無下に断るのは正解ではないように感じた。
後日、次のことなら出来るので、土地を貸してもらえるかどうかメールで問い合わせた。僕が書いた英語のメールをそのまま送信した(多分、娘さん、息子さんが訳せるので)。
- マンパワーの関係でフルタイムでは協力出来無いけれど、週一回ペースでなら技術指導に行けること
- 日本の四季成りいちごの情報を調べて、有力候補数種類なら輸入できること(有償)
- 持ってきた四季成りいちごのうち、どの株が適しているか、どういう注意が必要かを共同で探ること
- 日本の温室+高設栽培の標準的な方法について情報提供すること
- 僕らのショップで、彼のフルーツも販売できること
本当にこんなに出来るのかどうか知らないが、オーナーの乗る気が萎まないように書いてみた。
数日後、契約の話を詰めるので再度来て欲しいという連絡が入った。
まだまだどうなるか分からないが、なんとか道が開けそうな気がする。
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