気違い英国人のパズル
見知らぬ村で独り泊まった際、宿のお母さん、お父さんからはとても親切にされた。
「家族のように過ごしてください」というのがモットーらしい。とてもおっとりしていて、静かでいつも微笑んでいて、教養がありそうな方達だった。
朝は、無料でおかゆ(カウトン)とコーヒーをサービスしてくれた。
外出すれば、帰った時に涼しいようにエアコンを入れておいてくれた。
バナナとマヨンチッドをくれた。
独りで心配でしょうと、女将さんが下の部屋で寝てくれた。
結局2泊したが、僕以外に他に宿泊者はいなかった。とても儲かっているとは思えない。
お父さんの方は、20年近く前に日本に来たことがあるとのこと。
「あの時はビザを取るのに大変だったですね。今はビザが要らなくなってタイ人が沢山観光に行っているそうですね。」
「はい、すごい勢いです。でも、中国人と違って、タイ人は皆控えめで行儀が良いので、観光地では歓迎されていますよ。」
そのお父さんが、
「あんた、ゲームは好きか?」と聞くので、好きだと答えると、こっちへ来いと裏庭から隣の家に案内してくれた。
その家には広い納屋のような工場があって、そこで木製のバズルを作っていた。
「ああっ!」僕は少し緊張した。
木製のバズルは、マシュマロちゃんの人生を狂わせた気違い英国人が商売にしていたのだった。
彼はチェンマイにタイ人妻を持ち、チェンマイで木製バズルを仕入れ、それを英国等で販売していることを知っていた。
「ここで作ってここで売っているのですか?」と聞くと、
「いや、ここは作るだけ。ファランが全部買い上げていく。一部はチェンマイのナイトバザールでも売っているよ。」
「ファランってイギリス人ですか?」
「イギリス人もいれば、フランス人もいる。いろいろな人が仕入れに来る」
おそらく気違い英国人もここで仕入れているのだろうと思った。
そんなことを話していると、隣の家の主が来て、実際の準完成品などを見せてくれた。これから表面を綺麗にして、塗装すれば完成だ。
「儲かりますか?」と聞くと、「儲かるよ。」と嬉しそうに答えた。
工場と言っても、彼が独りで手作業で作っているだけなので、おそらく一日に10個も出来ないのではと思った。
その主は、案内してくれたお父さんの弟さんらしくて、兄の顔を立てたのか、僕に二つバズルをくれた。
僕はお父さんの知り合いでもなんでもなくて、ただの宿泊客だったので、「ありがとう。でも、お金を払いますよ」と言っても、弟さんは頑なに拒むので、ありがたく頂くことにした。
この二つが頂いたバズル。下の大きなパズルは上から見ても分からないが、二段になっていて、思いの外難しい。多分、1時間で組めるとは思えない。上のパズルは、注意深く4コマを外して、再度組み立てようとしたら、もうできなくなった。
翌朝、更に沢山のパズルがテーブルの上に置いてあった。
こういったパズルは、注文する外国人が設計して、それをここの人に作らせているのだそうだ。パズルを設計する頭はないのだそうだ。
玩具は口に入れても大丈夫なように、日本では食品並に規制が厳しい。多くの木製玩具が塗料の成分などで輸入販売できない。
僕は死んでも気違いファランの真似はしたくないので、写真を撮らせてもらっただけだが、もしかすると新しい買い手になって欲しかったのかもしれない。
気違い英国人とここで鉢合わせになるのは嫌なので、おそらくここにはもう二度と来ないだろうと思った。
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