前月新しく来た住込みワーカーの男(26歳)が、2週間程前から悪心嘔吐、胃の痛み、腹部の腫れで元気がなかった。
胆石か胃潰瘍だろうとは思ったが、胃がんが一番心配だった。ともかく、もう少し様子を見ることにしていたら、数日前から嘔吐が激しくなって発熱もあり働けなくなってしまった。
どうもこれは悪い病気のようだと思い、10000バーツ分の給料を前貸しして、パクチョンナナ病院に行かせた。パクチョンナナ病院はこの辺りでは一番大きい公立病院で、タクシンの30バーツ診療が使えるので、何時も多くの患者さんでごった返している。何処の公立病院もそうだが、待ち行列が長く、朝早く行っても大抵一日掛かりになる。遅く行ったら、駐車場がなくて病院にも入れない。
案の定、夕方になっても帰らず、入院になったと聞いた。
入院した夜に見舞いに行ったが、レントゲンは撮ったが結果は明日で、超音波検査は明日か明後日と流暢なことを言っている。生食を点滴されて、大部屋でただ寝ているだけだった。
血液検査の結果、肝機能の異常が見つかり、肝臓が炎症を起こしているということだけ分かった。その時、発熱が酷く、腹を押すと痛く、目に黄疸が出ていたので、僕は胆石とみた。
自分が胆石で緊急入院、緊急手術を受けた時も、同じような症状だったから。
ところが、翌日の夜、再度見舞いに行くと、なんとB型肝炎と分かったそうだ。
聞いてみると、母親がB型肝炎のキャリアーで、姉も感染しているのだそうだ。
僕はタイに来て、HIVとHBVにだけは注意して来た(注意しただけで、無防備なことをしたけれど)。
出産時等に子供が感染すると、免疫系が未発達なので慢性化する。それが、免疫系が成熟する20-30歳代になって、免疫がウイルスを発見、肝細胞ごと攻撃するので、激しい肝炎になるらしい。
あまり有効な薬は無く、肝臓に負担を掛けないようにして安静していれば、多くは治まるらしい。
彼の妻も子供も、HBV検査を受けたことがなく、亭主のHBキャリアのことも知らなかったようだ。(こういうことは、きちんと話すべきだと思うが)
恐らくは、あと1~2週間安静にしていれば、肝炎は治まって、また仕事が出来るようになるだろうと思う。そうでなくては困る。
何しろ、お父さんが入院すると、お母さんは付添でずっとベッドサイドにいて、子供も学校に行かず一緒にいる。特にすることもなく、居ても仕方がないと思うのだが、タイでは側に居ることが大切らしい。
つまり、僕らにとっては、働き手が居なくなる訳で、仕事が進まない。居るだけで病気になりそうな公立病院の病棟で何もせず付き添っているより、奥さんには働いて欲しいと思うけれど、それを言ったら顰蹙者なんだそうだ。
HBVはプールに一滴血液が落ちた程度の希釈率でも、その液が直接血液に入ったら伝染る程で、HIVよりも遥かに要注意だが、HIV同様皮膚から感染することはなく、通常一緒に生活していても伝染らない(血液、体液、排泄物、歯ブラシ等は危険)。
しかし、大工仕事や野良仕事では、血が吹き出る機会が多い。ほとんど毎日出血するので、一応気を付けておいた方が良さそうだ。
因みに、昔僕は臨床試料に触れる機会があるということで、任意でHBワクチン接種を受けている。抗体価は一年くらいでなくなってしまうが、HBVに対する免疫力が全くなくなってしまうわけではないようなので、ちょっと安心である。
彼の妻は、性交渉や介護等の際、十分注意した方がいいだろう。
HB肝炎と分かったわけだが、腹のしこりの理由は未だ分からない。
彼の妻が別の住込みワーカーの妻に話した内容に依ると、僕が彼に無理にビールを飲ませた為に肝炎が悪化したんじゃないかと疑われている(訳者注:決して無理に飲ませていない。よく働いてくれたので、感謝の印に乾杯しただけ。彼はグラス一杯くらい飲んだだけ)。
ワーカーが居ないと何にも野良が出来ない僕は苦境に立たされている。