タイでは何処にでも売っているSIMカードを携帯に刺して使うだけだった。後は使う分だけ料金を足してゆけばいい。
つまり誰が、どの携帯(SIMカード)を使っているかは、誰も知らなかった。
ところが、最近電話をかけようとすると、
「あなたの携帯とSIMカードは登録されていません。7月末までに、IDカード(外国人はパスワード)とお使いの携帯端末とSIMを持参してTRUEショプにお越しいただき登録をお済ませください」という趣旨のメッセージが先に流れるようになった。同じような内容のSMSメッセージも来ていた。
何故登録しなくちゃいけないのか、何か問題があったのか全くわからないまま、言われるとおりパスポートを持ってTRUEショプに行ってみたところ、人でいっぱい。隣のAISも同様。
店員に、
「ねえ、あんた英語話せる?あ、少しだけOKね。あのさ、この携帯にSIMを登録するようにとメッセージが来るんだけど、なんで?」
と聞くと、何やら直ぐに分かったようで、僕のパスポートと携帯を取り上げて何処かに電話をかけて何やらコードを得たようだ。次に、別の携帯で何処かにアクセスし、パスポートの写真を取って送信し、次に電話番号と、先ほど得たコードを入力した。
「はい、これで終わりました」
「終わったって何が?なんで登録作業が要るの?」と聞くと、うるさそうに
「法律が変わりました」と言う。
「今パスポートの写真撮ったでしょ。ちゃんと消しといてよ。」とキツく言うと、
「はい、あれは送信しただけで端末には残っていません」とのこと。
マシュマロちゃんは、
「新しい法律で登録が必要になったみたい。」と言う。彼女の携帯を見ると、やはり同じようなメッセージが入ってた。
そこでAISに行って「SIMの登録です」と言うと、
「ああ、あちらに並んでください」と指さしたところには行列ができていた。行列の先頭には大きめのATMマシーンのような機械が。ID情報登録用のマシンだ。
捜査員がその機械にIDカードを差すと、一瞬登録内容が表示される。もちろんカードよりも鮮明な写真も出てくる。それを隠すように素早く次画面にして、次いで電話番号と端末の識別コードらしいものを入力すると登録完了。
つまりこういうことらしい。
国家放送通信委員会は、未登録のプリペイドSIMカードの利用を禁止し、全ユーザーに7月31日までに登録することを義務付けた。登録しなければ、8月から通話やデータ通信が出来なくなる。
未登録ユーザーは人口よりも多い9000万人ほど。
発表されたのは1月末のようだが、僕は最近まで全く知らなかった。新法律が最近施行されたのだと思う。
それにしても、これは劇的な変化と言える。無法地帯から一気にIDと直結する世界になってしまうわけだ。
IDは常時携帯が義務付けられているが、実際に至るところで使用する。アパートを借りるとき、銀行口座やATMカードを作るとき、何かの契約をする時、新しい会社に就職するとき、社会保険に入るとき、入出国のとき、ホテルにチェックインするとき、オフィスビルに入るときなどなど。
そして、タイ警察はIDが使われる毎にその状況を把握できる。個人情報は電子化されていて、ID番号さえわかれば、個人資産の状況から、犯罪歴、家族関係、使用した場所等の情報が即座に分かるようになっている。
これが携帯と結合すると、どうなるか? 国家放送電気通信委員会は、詐欺などの犯罪から市民を守るためと言っているが、できることはそれだけではない。すべての会話や通信内容が完全に個人情報と結びつき、タイ警察(と弁護士やその他一部の政府の人)は何時でもそれを追跡できるということ。
考えただけでも恐ろしい。
携帯を不用心にセクハラや売春等ブラックなことに使うと、相手が被害届を出せば通信記録から誰がやったのか全部分かってしまう。
年数回訪タイ組の方は次回タイに来た時に、持っていたSIMが使えないということになるかもしれないのでお気をつけて。
ところで、一枚のSIMを複数の端末で使用したり、一つの端末で複数のSIMを使い分けている人はどう対応すればいいのだろう?
