弁護士を使った事故賠償交渉
歩行者である僕と衝突したオートバイを運転していたのは、13歳少年、無免許で、オートバイは登録期限切れ、そして保険無加入だった。
もしもこの事故が日本で起こったとしたら、どんな場合でも運転者が悪いので、
①少年は逮捕または補導、少年院行き。
②加入している筈の保険から、被害者へ治療費の全額支給。通院交通費、無労働期間の補償に加えて、もし何らかの障害が残ったのなら、障害度に応じた多額の保険金が支払われるだろう。仮に、少年が無保険の場合でも親の自腹で払うべきは払われる。
のが普通じゃないだろか。
今回僕の場合、実際に治療に要した経費は合計で約60万バーツ(216万円)を超えた。大金である。それ以外に、僕とマシュマロちゃんがひと月働けなかった損害もかなりのものになる。
幸いにも頭の機能はほぼ回復したが、一歩間違えれば大きな障害が残ったかも知れないことを考えると、安易な補償は容認出来ない。
では、タイでの現実はどうか?
これまで警察から聞いた状況を纏めると、
事故を起こした少年は、警察から逮捕も何もされていないだけじゃなく、
①僕が車道を彷徨っていた。
②クラクションを随分鳴らしたが僕が避けなかった。
と言い、僕側に問題があったと主張しているそうである。
僕は衝突前後の記憶がないので、彼の言い分が正しいかどうか分からないが、僕が出血して倒れている写真を見ると、場所は車道どころか、歩道の端の方である。
また、マシュマロちゃんはクラクションの音など聞いていないと言っている。
これらからして、少年の嘘の可能性が高い。
また、少年の親は、既に村の長老や警察に根回していて、
①少年は悪くなかった。
②保険もないし、家にお金もないので、お金は払えないので払わない。
という示談に持っていこうとした。
心優しいハムケンも、
「いくらなんでも、それはないだろう」と思った。
マシュマロちゃんが、いろんな人にこうした状況を説明して相談したところ、概ね下記の様な意見、アドバイスを貰った。
①いくらタイが遅れていると言えども、先方の主張は法律的にもモラル的にも間違った方向なので、毅然として戦うべきだ。
②個人で言い争っても、警察との縁や袖の下の額に結論が影響されそうだし、話し合いに疲れたり感情的になったりするのは馬鹿馬鹿しいので、弁護士を使って裁判に訴えるべきだ。タイでも無免許運転は法律違反であるのかは明らかだし、相手も裁判で高額の支払い判決が出ると怖いので、裁判を避ける為に態度を変えるだろう。
③日本大使館に被害状況を訴えて、タイの行政側に文句をつけるべきだ。タイの警察に頼っては駄目だ。それくらいしないと、悪しき習慣は改善されない。
その通りだと思い、僕らは友人から紹介してもらった弁護士と相談した。
彼の意見は、実際の裁判は時間もお金も労力も掛るので、裁判を興すふりをして、早期に示談にするのが得策とのことだった。
彼は一人で警察署に行き、事故調査の進捗を聞き取り、何故少年が逮捕されないのか聞き出した。
数日後、警察から弁護士に、少年の父親が20万バーツを支払うので示談にして欲しいと言っているとの連絡があった。
20万バーツは掛かった費用の3分の1である。とても十分ではないが、次の理由で合意する事にした。
①タイの東京海上火災の医療保険担当者が便宜を図ってくれて、3分の1位保険金が出た。
②日本で入っている三種類の健康保険からも幾らかお金が降りる可能性がある(まだ未申請なので保険金額は不明)。
③裁判になると、数カ月から年単位の時間が掛かり、裁判費用も嵩む。
④裁判で高額支払いの判決が出ても、長期の分割払いとなる上に、実際に全額が支払われない危険性がある。
⑤揉めて恨みを買うと、裏で恐ろしい報復措置が取られることがある。
⑥20万バーツと言う金額は、彼らが実際に払える限度額に近い。
⑦僕らが選んだ病院は、この辺りでは一番高額なバンコク病院なので、掛かった経費は普通よりもかなり高額。
もう一つ、仏教的な見地から、年配の僕が少年の将来を考慮して許すのが美しいとのこと。
以上から、20万バーツ貰って、さっさと事を済ました方が得策と考えた。
弁護士と警察とマシュマロちゃんと少年の父親の4名で示談合意書にサインすることになる。
近く19万バーツが支払われ、不足分もひと月以内に払われるらしい。
僕が被害者本人だが、事故で頭の働きが悪い上に、タイ語やタイの法律に疎いので、ゴタゴタに巻き込みたくないというマシュマロちゃんの意向で、話し合いには全く参加していない。
話し合いの後、弁護士が僕のところに来て、上記の方針で良いか確認に来た。
弁護士の意見では、「落としどころ思う」ということだったので了解した。弁護士への謝礼は、5000バーツとのこと。
その時、初めて聞いて驚いたことは、少年は事故で転んだ時に片方の耳が取れてしまい、今も耳がない状態なのだそうだ。
まだ若い彼の得た痛手の方が重かったのかも知れない。
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