劇症肝炎に
B型肝炎で入院した新しい住込みワーカーは、その後坂道を転げ落ちるように病状が悪化した。
入院2日目のGOT, GPT が共に2300超え。
総ビリルビン値は18超え。
黄疸は酷くなる一方。
尿は出が悪く、コーヒー色。腎検査で重度の腎不全。
プレトロンビン時間は見当たらなかったが(多分やってない)、注射針を刺した場所から内出血が多く、血液凝固障害があるようだ。
腹水が溜まってお腹がパンパン。しかも、お腹が泣くほど痛い。
僕が思うに、劇症肝炎になってしまったと思う。
意識はまだしっかりしているようだが、奥さんに言わせると、昨夜は応答が意味をなさず変だったそうだ。
医師が言うには、すでに肝硬変になっていて、肝がんのせいかもしれず、胃も問題がある。パクチョンよりも大きいコラート市内のマハラット病院(胃のない胎児が掛かった主病院)に移送された。
やけに救急車の台数が多い。
大きな病院に移ったからといって、劇的に治療が改善される訳ではないし、明日明後日は土日で医師の大部分はお休み。事実上ベッドで寝かされるだけだが、月曜以降には専門医が適切な処置をしてくれると期待する。
こんなことを言うと顰蹙かも知れないが、僕は彼はこのまま多臓器不全で死んでしまうのではないかという気がする。
医療の進んだ日本では、血漿交換や透析などの肝臓補助療法をやっても、劇症肝炎の死亡率は50-70%に達するそうだ。生命危機が予想される場合は、生体肝移植も積極的に行うらしいが、ここタイではそこまでは出来ないだろう。
運良く回復したとしても、もうカオヤイ農園で働くのは無理。農園はワーカー不在ではやっていけないので、彼らには帰ってもらって、新たにワーカーを見つける必要が生じた。
しかし、こんな状態の時にその話は出来ずに困っていたら、病人の両親から直ぐに辞めてチェンマイに帰って来いとの指令が来た。直ぐに帰れと言われても、とてもじゃないが無理な相談で、回復を待つしかない訳だが、両親からすれば、カオヤイ農園で働いたのがいけなかったと思うのは仕方がない。
僕としては、病気になる程扱き使った訳ではないし、B型肝炎ウイルス保菌者だなんて知らなかったので、僕が病気にさせたとは言われたくないが、彼がここに来て割と直ぐに発症したので絶対に関係ないとも言い難い。
両親には直ぐに面会に来るように連絡した。会えないまま死んでしまわないように。
マシュマロちゃんは奥さんの話を聞く度に、気の毒で涙ぐんでしまうが、僕は彼らと未だあまり話もしたことがなく、情が移ってないせいか、これからワーカーをどうやって見つけるかという問題で頭が痛い。
情は移ってないものの、何をやっても気が重い。
気分が晴れない。
ここから2時間掛かるコラートの病院には、もう頻繁に行くことは出来ない。このことが、厄介な問題が遠くに行ったような気がして、正直少し気が楽になった。
ワーカー不在でも、いちご定植日は決まっていて、それまでにウォーターシステムとスプリンクラーの設置や、ココナッツポットへの豚糞、ココナッツ微粉補填作業は完了させなくてはならないので、今日も雨の中、マシュマロちゃんと二人で泥んこになりながら野良仕事をした。
何をするにも力が足りず、重い物を運んだり、サイズの合わない部品を無理やり繋げたりする作業にうんざりしてしまう。
所詮、僕自身で野良仕事をこなすなんて無理。口で指示して、頑強なタイ人にやってもらうしかない。
ワーカーがいなければ、僕らのいちご園はやっていけないのだ。