住込み野郎故郷に帰る
顔も頭も悪くて、物凄く汗臭いので、皆から嫌われていた住込み野郎が、僕の誕生日の朝に故郷のチェンマイに帰って行った。
前日の夕方、感謝の印か、ビール缶一本をご馳走になった。僕が奢ったビールは軽く100本を超えるが、お返しはたったの一本だった。
彼は、タイの最下層の中の最下層に属する人間で、僕を裏切ったお馬鹿幼妻からも、嫌われていたし馬鹿にされてもいた。
マシュマロちゃんも大嫌いみたいだった。
しかし、彼は僕の右腕として唯一2年働いてくれた野郎だ。
教育はゼロで、蓄膿症で脳みそが腐っていたものの、あれやれこれやれと言う僕の命令をそれなりにこなしてくれた。
流石に2年間もやっていれば、ポンプやウォーターシステムのことや、肥料のことや、いちごの世話のことはマスターしてくれて、細かいことを言わずしても自分で問題点を見つけて対応出来るまでに育っていた。
何故か皆は、彼の性格が悪いだの、お金を盗むだの、ヤーバーをやってるだの、女たらしだのといろいろ言うが、僕は彼が大好きだった。毎朝オッスと挨拶するのが気持ちよかった。
また、僕が自分でやるには力が足りないとか、面倒くさいとか、汚いからやりたくないことは、何でも彼に言いつけてやってもらった。彼は嫌な顔せず良く働いてくれたので、大切な右腕だった。
彼に言わせれば、性格が悪いのは自分で、そのお陰で妻に嫌われた。妻は性格が良く教養もあって自分には勿体無いくらいなのに、自分の性格が悪くて不幸にしていると嘆いていた。
確かに、少ない稼ぎなのに、ビールを隔日で飲んでしまったり、タバコを止められずに毎日一箱買ってしまったりで、奥さんへの仕送りが低迷した。そういう自我のコントロールが出来ないのは難点ではあるが、そういう僕も酒やタバコも止められないのは同じだし、女好きなのは僕の方が上だ。
毎日のように、閉店後に彼にビールを買いに行かせ、半分彼に上げて一緒に飲めば、疲れも癒やされた。
彼は蓄膿症の為に発音が鼻に掛かり、何を言っているのか7割は分からないが、何となく言いたいことは分かるし、どうせ大したことは言ってないから聞き流していた。
彼の名誉の為に言うが、100バーツ以上のお金をチョロまかしたことはない。ヤーバーもやってない。お金が無いので浮気もしていない。
一ヶ月14400バーツの給料のうち、平均で50%を奥さんに送金していた。
全部飲んじゃって送金してないとか、他の女に送金してるとか皆は言うけど、僕自身が彼に頼まれて奥さんの口座に振込んでいたのだから間違いはない(と思う)。
残りを7000バーツとすると、一日平均で233バーツになる。3度の飯と、彼の好きなコーラとコーヒーをミックスした飲料水と、タバコとたまのビールを考慮すると、残るお金はゼロ。給料日前になると、タバコもお酒も飲まないので、お金が尽きていたのが分かる。
僕は僕なりに大切に扱ったと思う。彼も帰り際にしきりにキットゥンと言っていた。
来年は、韓国に出稼ぎに行って、しっかりお金を貯めたいから、もう僕のいちご園には来ないと言っているが、どうせ悪徳ブローカーが嘘のビザで送り込んで、たんまりピンハネするに決まっているし、最近の韓国の経済が最悪だから、止めといた方が良いんじゃないと言っておいたが、どうなることか。
行くにも70000バーツ程の準備金が要るそうだから、きっと一生行けない気もする。
行けなかったら、喜んでまた使ってやるから安心しろ。今度はもっと大切にしてあげるからな。
お前がいないと、僕一人じゃ何にも出来ないから。