ASCO2018
もう10年も20年も前の話だが、仕事柄、米国臨床腫瘍学会、通称ASCO(アスコ)の年次総会には、10回位行った。
お陰で、ロスアンゼルス、フィラデルフィア、サンフランシスコ、デンバー、ニューオーリンズ、シカゴ、サンディエゴと、多くの都市にも行けて、いい経験になった。
当時、長く続けた基礎研究の世界から臨床研究の世界に入って、臨床科学に戸惑いを持っていた僕に、ASCOは強い衝撃と感動を与えてくれた。
ASCOは、今や巨大で、とてつもなく影響力のある学会になった。
ASCOに行き始めた頃は、日本からの臨床研究は殆どリジュクトされるほど、米国と日本のレベルの差が大きかったが、その後国立がん研究センター等の素晴らしい研究結果がいくつかASCOで発表されるに至った。
僕の係わった研究も数回ASCOで発表された。
ASCOの何が凄いかといえば、臨床研究結果のパワーであって、例えば3万例の無作為二重盲実験試験で統計学的に有意差のある有無を言わせずの結果を発表され、発表当日からそのがんの標準的治療法が変わってしまうほどだった。ASCOの論文がそのまま治療ガイドラインや臨床医の教科書になるようなものだ。
新薬、新治療法が育つのは気が遠くなる程遅いように思えたが、一歩一歩着実に進歩して行って、10年も経てば、がらっと様相が変わってしまうだけの進歩がある。
毎年凄い結果が発表されるASCOだが、免疫療法関連で数報、前代未聞の驚愕すべき、勇気づけられる結果が発表されたようだ。
非常に専門的であって、今や素人になった僕がここで下手に解説して混乱を起こすのも嫌なので詳細は書かないけれど、いくつかの化学療法でも奏功しなかった末期がんでも、免疫療法で完全寛解が得られる場合があること、新しい免疫療法を使えば、化学療法より延命効果がある場合がある等の結果が出されたようだ(免疫療法と言う言葉は適切ではないかもしれない)。
一説によると、毎日数万個のがん細胞が生まれるが、ほぼ完璧に免疫機構がこれを排除して、がんと言う病気にならないようにしている。ところが、何億分の一位の確率で、それを回くぐることに成功する細胞がいて、それが臨床的がんになってしまうこがある。
多分僕の身体にも無数のがん細胞がいて、毎日免疫機構と格闘しているのだろう。
思えば、あの頃の僕は何かと闘っていた。
それなりに自分でもかっこいいかもなんて思う時もあった。
そして、負けた。
今もある意味闘っている。今度は組織もないし、人の判断で流されることもない。自分があるのみ。
農作業に明け暮れて、科学もへったくれも無い。世の中を変えてやると言う意気込みじゃなくて、自分の人生を有意義なものに変えたくて、一人闘っている。
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