南京錠
雲告齋の豚の糞を再度買い出しに行くため、妹さん夫婦と車を一時的に借り、代わりに僕らの車を使って貰ったら、車の中に家の南京条の鍵を2セットとも忘れてしまった。しかも、玄関とガレージの両方の鍵。残りの1セットは家の中。
隙間だらけで侵入容易と思われたカオヤイの家だが、すべての窓に鉄格子が打ってあって、鍵を開けない限り家に入れない。
このことに気付いたのは、ワンナムキアオからカオヤイに向かう途中だった。この時、妹さん夫婦は僕らの車でチェンマイに向かってしまっていた。
家に入れないなら、ワンナムキアオの掘っ立て小屋に引き返そうという話になったが、僕はもう限界。リゾートホテルに泊まっても良いから、何としてもカオヤイに向かいたかった。カオヤイのイチゴが放置状態だったからでもある。
鉄鋼屋に頼めば、スパークバーナーで簡単に焼き切ってくれるだろうし、円盤ダイアモンドカッターで切ってもいい、と思った。
しかし、時刻は5時半を過ぎて、技術者はもういなかった。
道具屋で鎖カッターを買っても良いと思ったが、お店は5時で閉店していた。
頼みの近所のモトサイ修理場には、その手の道具は何もなかった。
ガレージ前で困り腐っていると、近所の人が集まってきた。そして、古くて錆だらけの鉄のこを何処かから借りて来てくれた。
「そんなもので、鍵の硬い合金が切れるわけないだろ。誰かダイアモンドカッターは持ってないのか?」と僕は叫んだ。
ダイアモンドカッターなど知らないマシュマロちゃんや従兄弟親子は、僕の主張が理解できなかったのは言うまでもない。
「何だか知らないけど、そんなもの此処にあるわけないでしょうが。そんな訳の分からないこと言ってないで、早くこの鉄のこで鍵を切って!」
そんなもので切れる訳ないと思っていたので、僕は拒否。
それを見ていた従兄弟の無口な息子19歳が、
「ええい、僕がやってやるから退いた退いた。」と前面に出てきた。
ゴリゴリゴリゴリ。
僅か5分で切断完了。
玄関の鍵はコツを得たのか、3分で切断。
20バーツ程度で買える鉄のこで、こんなに簡単に南京錠が切れるとは思わなかった。
また一つ、常識の違いが露呈された。
ところで、別のタイプの南京錠はライターと針金で簡単に開けることができる。しかも一切破壊せずに。開けてから鍵を閉めれば、開けられたことすら気付かれない。
この芸当を目の当たりにした時も、
「そんなもので鍵が開くわけないだろう。」と僕は思った。