サトウキビ
僕がまだ幼い頃、多分小学一年生位だったと想うが、家から少し離れた海岸縁の畑で、おじいさんがサトウキビを少しだけ作っていた。
まだ青くて若いサトウキビの茎を切って、歯で硬い皮を剥いた物を僕にくれた。
「甘いからしゃぶってみよ。」
言われるままにチューチュー吸ってみると、青臭い汁が確かに砂糖のように甘くて僕は驚いた。どうして草が砂糖のように甘いのか不思議だった。
それ以来、サトウキビをかじったことはなかった。
沖縄に行っても、タイに来ても、サトウキビ畑はたくさんあったが、何故があの時のようにサトウキビをしゃぶる機会はなかった。
歳を取るに連れ、あの夏の日のサトウキビの味が記憶から遠ざかり、その記憶を取り戻したいと思うようになっていた。
タイにいるのにサトウキビの味を思い出せないでいるのはおかしい。
そんな中、MBK前でサトウキビジュースを売っているのに気付いた。
目の前でサトウキビを絞っていなかったら、気付かなかったかも知れない。
飲んでみると、昔のように青臭くない。昔よりも、ずっと砂糖水に近くてずっと甘かった。
それから、この味は、それとは知らずにタイに来てから何度も飲んだことがあることに気が付いた。
「ああ、これだったのか。」
少しも青臭くないのが拍子抜けだった。多分、子供の頃にしゃぶったサトウキビはまだ茎も柔らかい水分の多い若いキビだったんだろう。収穫されてトラックで運ばれて行くサトウキビは、まるで木のように固く乾いていて、とてもしゃぶれそうな気がしないが、屋台で絞られていたサトウキビは、柔らかくて水分も多い感じだった。
そういえば、他にも砂糖ヤシの砂糖水も何度か飲んだことも思い出した。
大瓶の方を飲み干したら、最後には甘くて気持ち悪くなった。完全に糖分の取り過ぎ。