家の中に滝
三週間ほど前、大雨が降った。
降り出して30分ほどで、階段から水が落ちてきた。
水量はみるみる増えて、3分後には滝になった。
営業部長が、「上の窓があいているんじゃない?」というけれど、窓から吹き込む水の量じゃない。
まるで滝のごとし。毎秒10リットルの勢い。
一階はあっという間に水浸した。
慌てて階段を上がってみると、水は屋上から来ていた。
屋上の扉を開けると、屋上からの排水管がゴミで詰まっていて、屋上に降って溜まった水が全部屋内に流れ込んでいたのだった。雨量は日本の集中豪雨以上で、これまた滝のよう。
詰まったゴミを取除くと、ゴーという音を立てて、水は排水管を下るようになった。そして、屋内の滝は止まった。
しかし、一階に溜まった大量の水を一体どうしたらいいのだろう。
水浸しの床はとても滑りやすい。
階段を降りるときが危険で、僕は一歩一歩確かめながらゆっくりと階段を下った。
下で営業部長が、「滑るから気をつけてね」と言った瞬間
足が宙に浮いた。僕は階段におしりと背中を強打し、そのまま10段くらい階段を滑り落ちた。
「きゃあ~嫌だわ、大変!大丈夫?」と聞かれても、すぐには大丈夫なのかどうか自分でも分からない。
痛みの程度は大丈夫。後頭部は打ってない様子。めまいも吐き気もない。骨折もなさそうだ。
「うん、大丈夫と思う」と答えたのは10秒後くらいだった。
一休みして呼吸を整えた後、床に溜まった水をモップで一段低い台所に流し込み、それから外に流し出す作業をしていると、自分の肘が痛いことに気がついた。
見てみると出血していた。
後で洗ってみたら、肘の皮膚が2センチ弱裂けていた。
日本ならすぐに外科に行って、1~2針塗ってもらうところだが、僕はタイに保険がない。
外は土砂降りで出られない。車もない。
それと、肘は人間の体の中で一番神経が少なくて痛くない場所だ。
僕は放置することにした。
翌日、マシュマロちゃんがコラートから駆けつけて来て、僕は叱られた。
「どうして病院に行かなかったの!。あなたは歳で、傷が治りにくいんだから。」
肘は腕を伸ばし気味にしていれば、皮膚がたわんで傷口は開かない。消毒と抗生剤の投与は自分で済ませた。
その10日後、傷はほぼ完治。良かった良かった。
しかし思った。いつかきっともっと大きなけがをする。
やっぱり現地の保険に入っておいたほうが良さそうだ。重症で担ぎ込まれた時、保険がないとかの理由で十分な処置をされずに放置されたくはないから。
ただ、財布を見れば、僕が日本人で、クレジットカードも持っていることは見つけてくれるだろうけど。
自分の意識がしっかりしてたのなら大丈夫。とりあえず払うお金はあるし、後で日本の保険で還付されることを説明できるから。
うーん、そういえば、もう2年間もちゃんとした健康診断をしていない。やったことといえば、血圧とHIV検査だけだ。
そろそろ肺と胃と大腸のがんの検査をしておいたほうが良さそうだ。それと前立腺。
タイで安くできるところがあれば教えてほしい。